2024年3月25日に発売される『45歳からの「似合う」が見つかるおしゃれ塾』(主婦の友社)の著者、あやみん先生こと冨永彩心さん。華やかなスタイリスト時代に結婚・出産。そこからの15年近くのブランクを経て、今では年間100人以上のショッピング同行や、スタイリスト養成講座を主宰する人気ブランディングスタイリストです。
インスタのフォロワーは4万人超え、毎朝欠かさず続けている話題のインスタライブも「真似したくなる」「コーデがわかりやすい」と活況。
離婚、介護、親の看取りなど、多くの試練を乗り越え50代で起業したあやみん先生。つらい時期を乗り越えられたのはやはり「ファッションが好き」という子供の頃からの変わらぬ思いにあったそうです。
(撮影/松木潤 取材・文/皆川知子)
育児を優先し大好きだったスタイリスト業をあきらめた過去
「子供をおいて仕事をするなんて」
義母の何気ない言葉が心に澱のように溜まり、仕事を辞めたのが30代前半。それまではスタイリストをしていました。結婚したのが31歳、その後すぐ妊娠し、娘を出産。私自身は仕事を辞めるつもりはなかったので、娘を幼稚園に通わせ、近くに住む義母にときどき送迎をお願いしていました。でも仕事が終わったあと義母の家にいる娘を迎えに行くたびに「〇〇ちゃん、ママがいなくて寂しかったわね」と。
義母に悪意はないことはわかっていたのですが、いつのまにか負担になってきて。ついには仕事を辞め、その後の30代40代はパート務めなどをこなしながら、ごく普通の主婦として過ごしてきました。
57歳の現在は、インスタグラムのフォロワーが4.2万人。ブランディングスタイリストとして、お客様のショッピングに同行しお洋服を提案する仕事をしています。お客様は40代〜60代の方が多いですね。
もうひとつは、スタイリスト養成講座も自分で運営しています。今3年目で4期生のクールがスタートしたところです。養成講座の卒業生はようやく70名を越えました。
義母との同居、介護、夫の浮気、思春期の娘…暗黒時代だった40代
ファッションの仕事から距離を置いていた時期は、育児や介護が中心でおしゃれどころではありませんでした。写真を見てもらえれば一目瞭然でしょう。
上の写真、3枚とも私です(左から2つは40代、右は現在57歳の私)。
近所に住んでいた義母は脚が悪く、義父がずっと面倒を見ていたのですが、ある年にその義父にがんが見つかり、程なくして亡くなりました。残された義母をひとりにするわけにはいかず、同居をすることになりました。
結局義母が亡くなるまで7年半ぐらい自宅で介護をしていたのですが、最後の2〜3年は自力でお手洗いも行けないほど脚が悪くなってしまいました。
ヘルパーさんにお願いすることもありましたが、私もパートで仕事をしながら、毎朝5時に起きて、朝昼夜ごはんを全部作っていました。朝義母と一緒に朝食を食べたら、昼食用のお弁当を渡して出勤。夜ごはんもお皿に盛りつけた状態で冷蔵庫に入れておいて、娘に「帰ってきたらチンして、ばあばに出してあげてね」とお願いする。そんな毎日でした。
夫とはうまくいっていませんでした。
浮気をしていることは薄々気づいていましたが、特に何も言いませんでした。家には一応帰ってきていたし、正直私も日々の生活に追われて深く考える余裕がなかったんです。そうこうしているうちに、夫が自宅に帰ってくる日がだんだん減ってきて、義母が亡くなると家に帰ってこなくなり、1年ほど失踪!?という状況でした。
義母が亡くなったあと、同じ年に今度は私の父親が倒れて亡くなりました。葬儀のあとで久しぶりに元夫と会ったとき、ねぎらいの一言でもあるかと思ったら、まさかの離婚の申し出でした。驚きました。「結婚したい人がいるんだけど」って。順番がぐちゃぐちゃですよね(笑)。
今はこうやって笑って話してますが、当時は深く傷つき、落ち込みました。
どん底の日々を救ってくれたのは大好きな「ファッションの力」
30代40代は、おしゃれ自体への興味こそ失ってはいませんでしたが、今思えば、暗い色の服しか着ていませんでした。娘からはよく「ママは顔は笑ってるけど、目が笑ってない」と言われていました。無自覚でしたが、きっと疲れていたんでしょう。
家具屋さんや手芸材料店などいくつかのパートを経験。手芸屋さんで働いている時に娘が思春期に突入して、その心配もあって家からの距離が近い施設の受付のパートに変えました。そこがもう一番の暗黒時代でした。何が落ち込むって、制服が地味で似合わなかったんです。毛髪の色まで細かく決まっていて、明るくなんてできません。もちろん仕事上の身だしなみは仕方ないことと理解していましたが、身につけるものが気分に直結すると身に沁みました。あとは女性が多い職場特有の人間関係にも悩みました。噂話や、マウント合戦が苦手な私は、同じパートの女性たちの輪に溶け込むことができませんでした。
合わない仕事に神経をすり減らして自転車で帰宅したら、家の中には思春期のどんよりした娘がいて、そんな娘を塾に送った後は、義母とふたりで黙々とご飯を食べる、みたいな(笑)。本当にその頃は毎日が楽しくありませんでした。
これではいけないと一念発起し、48歳の時にセレクトショップの販売員の仕事をはじめました。介護との両立で時間のやりくりは大変でしたが、お店にあるパリコレに出ているようなブランドのキレイな洋服を見ていると、それだけで気分が晴れたことを覚えています。介護や日々のさまざまなことに追われる中で、ショップで働いている時だけが本当の自分を取り戻せる時間でした。
パーソナルスタイリストなのにおしゃれが苦手な人の気持ちがわからなかった
2019年、退職。そこでなんとなく「独立しようかな」と思い立ちました。ただその時期は、自分自身の離婚や家庭の事情が山積みだったので、スタートダッシュを切ることもできませんでした。名ばかりのフリーランス状態で時間だけはあったので、パーソナルカラーや顔タイプ診断の検定を片っ端から取り、心理学の講座や起業塾にも行きました。
独立後しばらくは売り上げはほぼなし。2020年ぐらいから何となく仕事として成り立ってきたぞ…みたいな矢先に今度はコロナがやってきます(笑)。外出時自粛の風潮があり、せっかく予約していただいたショッピング同行もできなくなり、再び収入はゼロに。
仕事もなくどうしようとなっていたときに、思いつきでオンラインで無料のグループ相談会を始めることにしました。2ヶ月の間に、週1回から週2回というペースで開催。そこで130人ぐらいの集客に成功し、百貨店が再開したタイミングでショッピング同行の仕事も再スタート。オンライン相談会でつながったお客さまが来てくれました。
お客様が多くついたことで良かった点があります。それは一般女性のファッションに対するニーズが掘り出せたこと。それが最大の収穫でしたね。
私は根っからファッション大好きで、それしか興味がないような人生だったんですよ。だからこそ、ファッションに悩んでいる人の気持ちがわからなかったんです。
相談会では「何を着ればいいですか」から始まり「何色のカーディガンを買えばいいですか」といった具体的なお悩みをたくさん受けました。当初の私は、そんなお悩みを聞いても内心では「好きなものを買えばいいじゃない」って思っていました。正直彼女たちが悩んでいることがわからなかったんですよね。
30代40代ならではの等身大のお悩みをたくさん聞くうちに、自分の中でも解決策を考えるようになり、よりアドバイスに深みが出てきたと思います。
自分以外を優先しがちな40代50代こそ、自分を見つめる時間を作ってほしい
本のタイトルにもある「45歳」という数字ですが、私が45歳だったのは、ちょうど制服を着て働いて、人間関係に悩んでいた暗黒期あたり(笑)。
45歳って、家では家族のために働き、仕事に関しても重要なポストを任されたりして、「自分を犠牲にして何かをしなくてはいけない」というシーンが多い時期だと思うんです。私自身も40代後半を振り返ってみて、「自分のことを考えている時間なんて、1日に1分もなかったな」と思います。
インスタライブでもよく言っていることですが、みなさんには自分のことを考える時間を5分でも10分でも作ってほしい。今の自分のことや、この先こんなことがしたいというような希望だったりを考える時間を意識して作ってほしいなと思います。
おしゃれも「自分のことを見つめる作業」のひとつ。自分のことがわからないと、着飾るという行為はできません。自分のことを知らないまま、適当に買ってきた服を適当に着ているから、気づくとおかしなことになっているんです。
毎日数分でもいいので、鏡の前に立って、今日の自分はどうだろう、と見つめて欲しいですね。
毎朝30分のインスタライブを続ける理由
そういう思いで続けているのがルーティンワークとなっている毎朝30分のインスタライブです。今ではほぼ毎日配信していますが、最初はなかなか続けられず挫折を繰り返していました。離婚をしていよいよ後がなくなった時に、「今回こそは絶対やり切るぞ」と決めました。
その年の1月1日から始めたのですが、まずは100日間続けようと思い、なんとか達成。100日間休むことなく続けられたのは、やはり視聴者のみなさんからのコメントですよね。「わかりやすい」という言葉に励まされ続けました。あとは、娘をはじめとする知り合いからの「見ているよ」という声ですね。そう言われるとやめるわけにはいかなくなるので(笑)
ライブ内ではいつも「この30分間だけは自分のことやファッションのことだけを考えましょう」と言っています。今の自分を知り、時代のトレンドを知ると、「自分のおしゃれはアップデートできないな」とかそういうことにも気づけます。
20代、30代のときに好きだったファッションを貫く人もいると思いますが、私はもっと柔軟にどんどんアップデートしてほしいと考えています。何も「トレンドだけを追え」と言っているわけではなりません。自分の変化を知り、年齢にマッチした似合うものを知って、おしゃれを楽しんでもらいたいと思いますね。
おしゃれが一番じゃなくていい。本当にやりたいことのためのおしゃれという考え
お客様から「あやみん先生と選んだ服しか着ないようになったら、1日の時間が増えた気がします。服選びに迷わなくなって、その分趣味に使える時間が増えたので、先日コンクールで賞をとりました」という報告がありました。
ほとんどの人にとって、おしゃれが生活のメインではないと思います。自分に似合うものがわかっていれば、コーディネートにかかる時間も短縮。服に迷う時間をなくして、あまった時間を本当にやりたいことに費やせるようになれると本望ですよね。
あとは服装が決まれば自信につながります。人から褒められることが少なくなってくる年代なので、「その服ステキね」とひと言言われるだけでもうれしい気持ちになるのではないでしょうか。
自分のことがわからなくなっている人に読んでほしい
思えば私の人生は、リセットをすることが多かったかもしれません。大好きだったスタイリストを30代で一度辞め、一時はファッションとはかけ離れた仕事も経験しました。それでも今またパーソナルスタイリストという仕事に戻ってきたのは、根底にある「ファッションが好き」という気持ちだけは細く続いていたから。
子供の頃から体も弱く特に取り柄のなかった私ですが、母が作ってくれた洋服を着て出かけると、周りの大人から「かわいいね」と褒めてもらえたんです。それがとてもうれしくて、まさに自己肯定感が上がるきっかけでした。
今後は、スタイリスト養成講座を受講している生徒さんが集まれる場所を作りたいな、と思っています。卒業生たちが自分でお仕事をするようになった時に、気軽に使えるようなスペースがあるととても便利だと思うので。
あとはパーソナルスタイリストとお客様をマッチさせる仕組みも作りたいですね。現在は月に1回パーソナルカラー診断会や骨格診断コーディネートレッスンというものを開催しているのですが、そこに卒業生を呼んでお客様にアドバイスをしてもらったりしています。そのような「おしゃれになりたい人とおしゃれにしたい人をつなぐ場所作り」ができれば最高ですね。
最後にこの本は、普段から家族や仕事のことを一番に考えて自分のことを後回しにしている人にぜひ読んでいただきたいです。人のために生きてきたから、自分がどこかに行ってしまっていて、着るものも何を着ていいのかわからなくなっている人も多いと思うんです。
そんな人がこの本を読むことで「自分が好きだったもの」をもう一度思い出し、純粋にファッションを楽しめるようになるといいなと思います。
だって洋服って毎日身につけるものですよ。その行為を憂鬱な気持ちでするなんてもったいないじゃないですか。それに外見が変わることは、その人自身に与える影響も大きい。外見が変わって自分に自信がついたらその先に見える新しい何かにチャレンジできるかもしれない。そうやって人生の後半戦をより良いものにしてもらいたいですね。人生まだまだ長いので。
プロフィール
著者:冨永彩心(とみなが あやみ)
1967年生まれ、神奈川県出身。文化服装学院卒業後、フリーランスのスタイリストとして活動。結婚・出産を経て専業主婦に。13年のブランクを経て、百貨店の販売員として復職したのち、52歳で独立。現在は品川区で、トータルファッションカウンセリングサロンを主宰する。「45歳からの生き方をファッションで激変させる」をコンセプトに、年間100人以上のショッピング同行やスタイリスト養成講座をこなす。開催する講座はまたたく間に満席になる大人気ブランディングスタイリスト。ファッション関連の検定や資格を多数取得し、神戸国際大学でゲスト講師として授業を担当している。
書籍概要
著者:冨永彩心
定価:1650円(税込)
発売日:2024年3月25日(月)
仕様:A5判・128ページ
ISBN: 978-4-07-456852-9
発行:主婦の友社
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